Films:Mar.2022『ウエンディ&ルーシー』ほか
3月に観た映画30本を振り返り。誰にも求められていないですが超個人的な健忘録として。
もしも、観る映画のきっかけになったらそれはとっても嬉しいです。
ケリー・ライカート『ウエンディ&ルーシー』『ミークス・カットオフ』(未ソフト化)
U-NEXTありがとうなケリー・ライカート配信も少しずつ楽しんでおります。
『ウエンディ&ルーシー』は、きっとこの裏にはキラキラしたポートランドもあるかと思うと余計につらい、女性とわんこの帰る場所もないアラスカへの途中。
唯一の寝場所だった車も修理代払えず手放し、相棒の犬もご飯すら買えないしフェンス越しの別れには泣くよね...警備員のおじいさんに貰う6ドル。
辛すぎる現実と淡々と流れる時間と切り取る風景の感情。いい話、悪い話が切り替わり、ミシェル・ウィリアムズのほぼ表情の演技も見事。鼻歌の作曲でボニー"プリンス"ビリー!
『ミークス・カットオフ』はケリー・ライカートの撮る西部劇。
静かで、乾いた大地を延々と歩く。切り取る景色はもちろん綺麗だし夜のシーンの、真っ暗な緊張感はドキドキさせられる。
女性のドレスと泥だらけな姿とコーヒー挽いたりパン捏ねたり、ささやかに移動の暮らしをちゃんと描写してるのも好き。音もやたら効いてる。
このミシェル・ウィリアムズは今まで観た中で一番好きかも!そしてPD&ゾーイ夫婦もご出演!
ハル・アシュビー『チャンス』
世間を知らずに育った"ガーデナー"の町に出る時の音楽が斬新なデオダートのツァラトゥストラでいきなりワクワク。
この話の下敷きもニーチェのツァラトゥストラらしいので、なるほどある意味超人的すぎる原題のとおりに、ただそこにいるだけのピーター・セラーズの天然すぎる庭話が、大統領まで惑わすアイロニーたっぷりな大人の童話みたいで楽しい。
シャーリー・マクレーンの狂いっぷりも流石、うまい!
原作のジャージ・コジンスキー(『異端の鳥』の原作!)もぜひ読みたいと思い現在読んでおります、がほぼそのまんまだった。脚本も本人らしいので当たり前っちゃ当たり前か。
ロイ・アンダーソン『ホモサピエンスの涙』も観たかったのをやっと。
信仰を失った神父さんの途方もない叫びったらないわ!大変だ。
どれもが哀しくもそこら辺に転がっている人間の営みをグレートーンの色味と絵画のような絵作りにワンカットで紡ぐ。
どんなことがあっても続いてゆく暮しをパンデミックやら何やらで混乱する日々を暮らして余計に染みるこのシンプルな映画。
女の子三人組が踊り出すところ、なんてキュート!実際遭遇したらギョッとしそうな人たちだけど。そんな滑稽さも愛おしく感じさせるから不思議。
こちらもちびちび楽しんでいる、アニエス・ヴァルダ作品たち。
『落穂拾い』は新しいハンディカムでワクワクしながら撮る、"落穂拾い"という拾い物をする人々をおうヴァルダ。
畑仕事を体験してみてから、より食べ物は絶対に捨てないようにしているけど、拾うのはハードル高い。落穂拾いという詩的な言い方は流石なお国柄!
そんな人々を追いながら、刺激され自分の老いた手の皺を獣のようと接写したり、ハート型のじゃがいもにときめいたり。愛おしい表現の数々。
その鋭い嗅覚で手繰り寄せるラストの締めくくりにフランス語のゆるラップまで奇跡的な人だな、と感動する。
清水宏『按摩と女』
なんとなしに観たらめっけもん!な良い映画。
ほぼ1時間でここまで濃密にしとやかに、日本の温泉郷にての出来事を最小限に描く美しい作品。
按摩さんの見えない目から見える匂いたつ淡い恋とワケありおんな高峰三枝子の艶やかな気怠さ。
今だと各方面から怒られてそうなネタもあるけど、色々とこのくらいおおらなのも居心地がいい気もするよね。そろそろこんな萎びい温泉に行きたいなぁ。
そして久しぶりのスタンリー・キューブリック『博士の異常な愛情』
ここまでブラックでユーモアのある映画もそうない、流石のキューブリック。
ピーター・セラーズの3変化も見応えたっぷり、周りの各キャラも強みちゃん。モノクロの映像の映えるライティングに絵作りに音楽使いまで神ですね。
まさかの2022年にこれを笑えない状況にあるという現在進行形の危機のなかで、かの国のプー○ンがお気に入りらしいのでさらに笑えなすぎる。
3月に観た映画28本
1. アラン ・コルノー『フォート・サガン』
2. アルフレッド・ヒッチコック『めまい』
3. 家城巳代治『姉妹』
4. コーエン兄弟『オー・ブラザー!』
5. アンソニー・アスクィス『黄色いロールス・ロイス』
6. 中田新一『公園通りの猫達』
7. ウォン・カーウァイ『楽園の瑕』
8. ハル・アシュビー『チャンス』
9. 石井輝男『網走番外地 望郷編』
10. アラン ・J・バクラ『コールガール』
11. アニエス・ヴァルダ『落穂拾い』
12. スタンリー・キューブリック『博士の異常な愛情』
13. 森崎東『喜劇 女は度胸』
14. リチャード・フライシャー『マンディンゴ』
15. スパイク・ジョーンズ『アダプテーション』
16.ケリー・ライカート『ウエンディ&ルーシー』(未ソフト化)
17. 木下惠介『陸軍』
18. マイケル・ウィンターボトム『スペインは呼んでいる』
19. ニコラス・ローグ『ジム・ヘンソンのウィッチズ』
20. リチャード・ブルックス『熱いトタン屋根の猫』
22. ハル・ハートリー『シンプル・メン』
22. ビリー・ワイルダー『お熱い夜をあなたに』
23. オリヴィエ・アサイヤス『冷たい水』
24. 清水宏『按摩と女』
25. スティーヴン・スピルバーグ『レディ・プレイヤー1』
26.ケリー・ライカート『ミークス・カットオフ』
27. ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンス『ウエスト・サイド物語』
28. ヴィム・ヴェンダース『夢の果てまでも』
29. 山田洋次『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』
30. ロイ・アンダーソン『ホモサピエンスの涙』