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少年たち / カラマーゾフの兄弟より

21 September 2016
少年たち / カラマーゾフの兄弟

無人島に一冊持っていくとしたら躊躇せずに選ぶ一冊がございます。
文学界のラスボスこと、名作中の名作、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』であります。
選ぶのは若い頃から変わらずずっとこの作品なので、多分一生このチョイスは変わらんのだと思っております。

さて、古今東西で映画化されている『カラマーゾフの兄弟』ですが、
面白いのもつまらないのも様々ではあるものの、自分が観た限りではイマイチなのも多かった訳で、
ひとえにその話の長さと映画の尺が合わない事に原因がありそうな。
ガッツリと10時間くらいの映画にすれば、もしかしたらと云う気もするのですが、
いずれにしてもそこは原作を凌駕するほどの監督、脚本の腕が求められる様な気がします。
日本語訳だけでさえ豊かなドストエフスキーの描写を再現するのは至難の業かとは思いますけど。
持論としては内田百閒の『サラサーテの盤』→鈴木清順の『ツィゴイネルワイゼン』くらいの
短い原作から映画監督が自由に膨らますみたいな作品なんかに名作が多い印象があったりします。

そんな映画ついての『カラマーゾフの兄弟』でありますが、作中の「反逆」、「大審問官」の章と匹敵するくらいの
エピソードである「少年たち」を中心として構成された映画、その名も『少年たち』(’90)があります。
タイトルだけではいささか道徳の授業っぽい「少年たち」ではありますが、そこは巨匠ドスト氏だけあって子供の世界にも
厳しい厳しい人生の真理を持ち込み見つつ、読む者を唸らせます。
かつてこの作品を観た知人のオススメと上に書いた持論もあり、期待度の高い作品ではありますが、
なんと絶望の未ソフト化。
以降ネットで散々情報を漁って早10年くらいで、この度ようやく映像を発見。
しかしまぁ、ロシア本国の映像の為に当たり前ながら字幕なし。
かくなる上は映像をゴニョゴニョして原作片手に字幕を付けたろと考えた訳ですが、敢え無く撃沈。
ロシア語の壁は厚いのであります。
そんな訳で、大体の内容は覚えているし、該当部分のみを読み返した上で鑑賞してみる事に。
使用したのは新潮版『カラマーゾフの兄弟』原卓也訳。
何度も何度も読んでいるのに、やはり文章だけで心が震える。

で、原作を読み終えて、いざ鑑賞。
ざっと話は追えるけれどもやはり細かい部分は良く分からん。
時系列もいささか手が加えられている感じがする。
今シーズン勉強しているロシア語も全く歯が立たず。
聞き取れるのは、キャラ名と、
Здравствуйте (ズドラーストヴィッチェ! / こんにちは)、
Спасибо (スパシーバ / ありがとう)、
Пожалуйста (パジャールスタ / どういたしまして)、
Можно? (モージナ? / いいですか?)
やたらと会話に出てくる上の単語のみ。と云うか会話内にこればっか出てくる。
そして未だに文字が良く分からん( ゜Д゜)
肝心の出来は、余分なミーチャの裁判沙汰等を一切排し、主人公アリョーシャと少年たちの交流が
無駄なく描かれている上に安定の90分でスッキリキッチリ収まっている印象。
人物や背景なの描写も原作のそれをかなり忠実に再現している。
監修にドスエフスキーの曾孫ドミトリー・ドストエフスキーが名を連ねているだけはある。
アリョーシャと少年コーリャのドキドキの下り、

"あのね、コーリャ、それはそうと君はこの人生でとても不幸な人にになるでしょうよ"

らしいシーンはあったけれども、定かではない。
最後の「カラマーゾフ万歳!」もそれっぽいのはある。
踏みにじられ惨めであっても誇りを失わない弱者であり強者である人間と、
どんな悪人の心の瞬間的にでも存在する筈の善の部分を育むべきなのだと云うドストエフスキーの熱い思いが
ビシビシと伝わってくる作りにはなっている。
それを未来の大人たち(少年たち)の話だけで凝縮する辺りに非常に好感が持てる。

冒頭にドストエフスキーが記した一節、

“よくよくあなたがたに言っておく。一粒の麦が地に落ちて死ななければ、それはただ一粒のままである。
しかし、もし死んだなら、豊かに実を結ぶようになる。”
(ヨハネによる福音書。第12章24節)

この一節と、これから成る「少年たち」を実に上手い事映像化しているのではないでしょうか。

そんなこんなの「少年たち」。
映像はゴニョゴニョなのでご紹介できませんが、すぐ見つかると思いますので、気になる方は是非ご覧ください。
気合いで翻訳するも良し、ぼんやりとロシアの映像を堪能するも良し、秋の夜長にロシア文学を読むなんても実に良いです。
monaminamiは今日もこんな感じです。

今週のカレーはモナミチキンカレー。
ケーキは栗のマフィン、塩キャラメルとチョコチップスコーン。
期間限定のお飲み物は焼き甘栗紅茶、焼き甘栗ロイミティー、抹茶ラテ、キャラメルミルクコーヒーと
段々と寒くなってきたので、秋らしいメニューもご用意してご来店をお待ちしております。

: otom

Fyodor Dostoyevsky